東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)144号 判決
一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。
二 取消事由(1)について
1 請求の原因四、1、(一)の事実は当事者間に争いがなく、この事実と成立に争いのない甲第二号証の一ないし四、第三号証、第五ないし第九号証の各一ないし三によれば、カラーテレビ受像機のブラウン管蛍光面(フエースプレート)上の画像の分解、組立操作は、フエースプレートの上左端と下右端の間を順次左から右に向う五二五本の直線上を一画面につき三〇分の一秒の割合で走査することによつて行われること、カラーテレビ受像機におけるストライブ式(本願発明の構成(A))及びドツト式はいずれもそれ自体周知であるが、ストライブ式にあつては電子銃から放射される青、赤、緑の三色に対応し発色する蛍光体塗布膜であるストライブ状のスクリーン線は、別紙図面(四)第2図のように三色が順次縦方向に並んで配列され、従来それらはフエースプレートの垂直軸線に平行状に配列されており、右スクリーン線のうち現実に発色しているのは右スクリーン線と右の五二五本の横に並ぶ線(以下「走査線」という。)と交じわる点であり、隣接する上下の走査線間にあるスクリーン線の部分は、電子銃放射中であつても分断された状態にあること、したがつて、例えば、ある特定の色のスクリーン線についていえば、スクリーン線のうち電子銃放射を受けた走査線上の発色点が縦に並んだ状態で映し出されるものであること、また、ドツト式にあつては蛍光体塗布膜であるドツトは別紙図面(四)の第1図のように三角形状に配列され、これを各色のドツトごとに見れば、従来各色のドツトとも縦にフエースプレートの垂直軸線に平行に配列されており、例えばある特定のドツトの縦の配列についていえば、電子銃の放射を受けた走査線上の発色した同色のドツトが縦に並んだ状態で映出されるものであること、そして、視聴者はストライブ式であつてもドツト式であつても、右のような縦列状の発色点を個々の点としてはなく、連続した一本の直線として認識するものであり、このように縦方向に整列した点状構成の画像が視聴者に線状構成の画像として認識されるものであることは両方式に共通するカラーテレビ受像機の原理であること、ストライブ方式ではスクリーン線が必ずしも上端から下端まで連続する必要はなく、途中で小さな間隔で分断されていても発色点は縦列状に映し出されるから、視聴者はこれを線状構成として認識するものであることが認められる。
2 前掲甲第三号証(引用例一)によれば、ドツト式では前記のように同色のドツトについてみれば、それは縦方向にフエースプレートの垂直軸線に平行に配列されているが、側辺が湾曲しているフエースプレートにあつては、このようなドツトの配列は側辺に近付くにしたがつて別紙図面(二)第2図のように階段状を呈することになること、ところで、ドツト式では縦列状の多数の点を一つの線として認識するのであるから、ドツトの配列が階段状となりその段部において配列が途切れれば、本来フエースプレート上端まで映し出されることが予定されていた線も同時に途切れることになり、その結果階段状を呈するフエースプレートの領域では画像も階段状に映し出されることになること、そこで、引用例一は、フエースプレートの最側端のドツトの配列の外周線を別紙図面(二)第4図のようにフエースプレートの側辺に添わせることによつてドツトを側辺に平行に配列し、フエースプレートの中心に近付くにしたがい(側辺から遠ざかるにしたがい)外周線の曲率を順次小さくして直線に近くなるようにしてドツトを配列することにより右のような階段状の領域の解消をはかつたものであることが認められる。
なお、前掲甲第三号証によれば、引用例一では別紙図面(二)第2、第4図の赤線で示すように、同色のドツトの中心を結んで形成される正六角形配列群を想定し、前記階段状部解消の効果を得るため、右正六角形配列群の垂直軸線をフエースプレートの側辺(周辺曲線)にほぼ平行とすることをその考案の要旨としているが、正六角形配列群の垂直軸線をフエースプレートの側辺にほぼ平行にすれば、縦列状のドツトの外周線もほぼフエースプレート側辺と平行なり最側端のドツトの縦列の外周線は右側辺に添うことになることが認められ、したがつて、正六角形配列群の垂直軸線をフエースプレート側辺に平行にすることと縦列の配列外周線を右側辺に平行とし或はこれに添わせることは技術的意義において差異はないものと認められるから、引用例一については右の配列外周線により説明することとする。また、前掲甲第三号証によれば、引用例一記載の考案は、ドツトの正六角形配列群の「水平軸線及び垂直軸線の少なく一方をフエースパネルの周辺曲線にほぼ平行」とすることを要旨としているが、本願発明が縦のストライブ状のスクリーン線とフエースプレート側辺を平行とすることを要旨としているから、前者においても正六角形配列群の垂直軸線(縦列状ドツトの外周線)とフエースプレートの側辺の関係のみを検討することとする。
3 前掲甲第二号証の一ないし四(本願明細書、昭和五五年一月二二日付手続補正書)によれば、ストライブ式において、スクリーン線がフエースプレートの垂直軸線に平行に配列されていると、側辺が湾曲しているフエースプレートにあつては、スクリーン線が側辺に近付くにしたがつて別紙図面(一)第2図のように階段状を呈することになり、その結果階段状を呈するフエースプレートの領域では画像も階段状に映し出されることになること、そこで、本願発明では最側端のストライブ状のスクリーン線の外側輪郭線をフエースプレートの湾曲状の側辺に添わせ、後記構成(B)に示されたプリントの方法によりこれと平行になるようにストライブ状にスクリーン線を配列し(構成(C))、フエースプレートの中心に近付くにしたがい(側辺から遠ざかるにしたがい)外側輪郭線の曲率を小さくして直線に近くなるようにスクリーン線を配列することにより、右のような階段状領域の解消をはかつたものであること、本願発明は右の構成(C)の適用についてその明細書七頁一二行ないし一四頁には、「この発明はスクリーン線の形状に関するものであるから、分断したスクリーン線にも、連続したスクリーン線にも適用できる。」との記載があることが認められる。
4 このように、ストライブ式(本願発明)でもドツト式(引用例一)でも視聴者に縦列の点状構成のものを線状構成のものと認識させる点で技術的に差異はなく、また、本願発明も引用例一記載の考案も、前記のような側辺湾曲型フエースプレートの最側端に縦列状に配列された発色蛍光体につき、前者ではストライブ状のスクリーン線の外側輪郭線をフエースプレート側辺に添わせてスクリーン線を右側辺に平行にし、後者では縦列状ドツトの外周線を右側辺に添わせてドツトの配列を右側辺に平行にすることにより、いずれもフエースプレート側端部に生ずる階段状部の解消を図ろうとするものであるから、右解消手段における技術思想を共通にするものということができる。
5 ところで、本願発明においてフエースプレートの最側端に分断したスクリーン線を配列すれば、スクリーン線とその輪郭線の形状は別紙図面(五)のとおりとなり、これと別紙図面(二)第4図の引用例一における最側端の縦列状のドツトとその配列外周線の形状を対比すれば、ともに同色の発色蛍光体が一定の間隔をおいてフエースプレート側辺に添つて配列されている点において類似性を見出すことができる。そして、両者ともこのように分断された縦列状の発色蛍光体であるが、それが電子銃の放射を受けて発色すればいずれも一本の線として認識されるのであつて、その間に技術上の差異が認めがたいことは前記のとおりであるから、側辺湾曲型フエースプレートにおいて、ドツト式に関する引用例一に記載されたフエースプレートの最側端に縦状に配列されたドツトの外周線をフエースプレート側辺に添わせて縦列状ドツトを右側辺と平行にすることにより階段状部を解消させる技術を、ストライブ式においても生ずる階段状部を解消するため適用し、分断されたスクリーン線についてその最側端のスクリーン線の外側輪郭線をフエースプレートの側辺に添わせ右スクリーン線を側辺に平行にする本願発明の構成(C)を想到することは、当業者にとつてさして困難なことは認められない。
6 原告は、本願発明と引用例一記載の考案において、フエースプレートの階段状部解消に関する技術思想が異なる旨主張するが、右主張が理由がないことは既に述べたところから明らかである。
また、原告は、ドツト式とストライブ式による画像の優劣の点から本願発明の進歩性を主張する。しかし、カラーテレビ受像管のフエースプレート側端部の階段状部はフエースプレートの側辺が湾曲している限り、ドツト式及びストライブ式のいずれにおいても生ずる問題で、これを解消することは発色蛍光体の形状のいかんにかかわりなく課題とされるところであり、本願発明も引用例一記載の考案も正にこの点を課題とする技術に関するのである。そして、本件では本願発明の採択した構成(C)による階段状部解消の進歩性が引用例一記載の考案との対比において問われているのであつて、その判断に当つて両者の画像映出に関する優劣自体は直接にかかわりないものというべきであるから、この点に関する原告の主張はその前提において失当というほかない。同様に引用例一記載の考案では縦列状ドツトの凹凸は解消されていないとか、同考案における縦列状ドツト相互の間隔と本願発明における分断されたスクリーン線間の間隔の比較とかも、前記のような本願発明の進歩性の判断に当つて意味のあることではない。
また、原告はフエースパネルの側辺に平行に発色蛍光体を配列するに当つて、本願発明におけるストライブ式が引用例一のドツト式に比し容易にして正確になし得る旨主張する。しかし、蛍光体配列の容易、正確性は形成される蛍光体の形状そのものに依存する問題であつて、フエースプレートにおける階段状部解消のため発色蛍光体を湾曲型フエースプレートの側辺と平行に配列するという技術思想とは直接には関係のないことであるから、右の点を効果として対比することは相当でない。また、この点を効果として勘案するとした場合、相互の形状を比較すればストライブ状のスクリーン線がドツト配列に比し形成が容易・正確であるということができるが、そのことは当業者として容易に予測し得るところであるから、引用例一のドツト式における前記のようなフエースプレートの側端部の階段状部解消の技術を本願発明のストライブ式に適用するに当つてストライブ状のスクリーン線の塗布形成の容易性は当業者の予測の範囲内の効果というべきである。
7 以上述べたところによれば、原告の主張する取消事由(1)は理由がない。
三 取消事由(2)について
1 成立に争いのない甲第四号証(引用例(二))によれば、引用例二には、カラーテレビ受像管において、選ばれた形の湾曲縦列状に配列されたスリツト孔(別紙図面(三)第5図28b、第6図28)をもつスリツト孔マスクを通して露光することによつてフエースプレート内側面に発色蛍光体によるスクリーン線をプリントする技術が記載されていることが認められ、この技術は本願発明の構成(B)の技術と差異はない。
2 原告は、引用例二は本願発明のようにスクリーン線をフエースプレートの湾曲側辺に平行に配列する技術ではない旨主張する。しかし、本願発明の構成(B)は、スリツト孔を通してフエースプレート内側面に塗布された蛍光体に各色を露光させて発色するスクリーン線をプリントする技術であるところ、かかる技術自体は前記のとおり引用例二に示されているところであり、この技術を適用してマスクのうちフエースプレートの湾曲側辺付近に対応する部分にはその形状に対応したスリツト孔を設けることにより、本願発明の構成(C)が示すフエースプレートの湾曲側辺に隣接するスクリーン線が右側辺と平行になるような縦列形状を実現することは、当業者にとつて容易になし得るところである。
3 そうであれば、原告の主張する取消事由(2)も理由がない。
四 以上に述べたところによれば、周知の本願発明(A)のストライブ式カラーテレビ受像管に引用例一及び二記載の技術を適用して構成(B)及び(C)を想到することは容易というべきであるから、これと結論を同じくする審決に誤りはない。
五 よつて、本訴請求を棄却する。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
(A) 対をなして相対する所定形状に彎曲した側辺を有する実質的に矩形のフエースプレートと、このフエースプレート上に配置された陰極線発光線スクリーンと、このスクリーンから離隔して管内に取付けられたスリツト孔を持つマスクとを具備し、(B)上記スリツト孔は管の幾何学的な要因によつて選ばれた形に彎曲した縦列をなすように配列されており、上記スクリーンは、上記選ばれた形の彎曲縦列をなして配列されたスリツト孔を持つスリツト孔マスク自体または同効のスリツト孔マスクを通して露光することによりプリントされたものであり、(C)上記縦列の形は上記フエースプレートの上記彎曲側辺に隣接する最側端の陰極線発光線がその彎曲側辺の所定形状と平行になるように選ばれている、陰極線管(別紙図面(一)参照)。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
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別紙図面(二)
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別紙図面(三)
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別紙図面(四)
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別紙図面(五)
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